1. はじめに
Webエンジニアといえば、プログラミングや設計、インフラの知識など「技術的なスキル」が真っ先に思い浮かぶかもしれません。たしかに技術力を高めることは当然重要ですが、それだけでは優れたエンジニアとは言えません。
実際には、チームやクライアントとのやり取り、プロダクトの方向性を理解しながら仕事を進める柔軟性、問題解決のための思考力など、技術以外のスキルも大きく求められます。
特に近年はAI技術の進歩により、コーディング作業の一部が自動化されはじめています。しかし、だからこそ人間ならではの創造性や柔軟な問題解決力が求められる場面が一層増えてきました。
この記事では、主にエンジニアに興味がある方から、すでにエンジニアとして活躍していてスキルを伸ばしたいと考えている方までを対象に、「Webエンジニアとして活躍するうえで必要となる技術以外の基礎スキル」を紹介します。
「自分はエンジニアに向いているのだろうか?」という疑問をお持ちの方は、そのヒントを得る機会にしていただければ幸いです。
すでに現場で活躍している方も、よりよいエンジニアになるうえでの参考にしてみてください。
2. エンジニアに求められる“技術以外”の基礎スキル
いわゆる"5教科"だと関連があるのは?
まずはエンジニアに興味があるものの、まだ具体的なイメージが湧いていない方に向けて、想像しやすい「学校の5教科」の話から始めましょう。エンジニアとして特に活かせるのは、国語・数学・英語の3つです。
意外に思われるかもしれませんが、国語が最も重要です。仕様書や技術文書を正確に読み解き、論理的にまとめる力が欠かせません。たとえば数学の数式は解けても文章題が苦手な方は、要件定義や仕様理解でつまずき、せっかく作ったものが最後に却下される可能性があります。
次に、数学はアルゴリズムや問題解決の土台となる論理思考に必要です。分類や集合の概念を押さえておくと、設計の初期段階から混乱しにくくなります。
とはいえ、実際の開発ではライブラリ(他の人が作った機能)を使うことが多いため、難しい数式を解くケースは意外と少ないのが現状です。複雑な計算が必要になるのは、機械学習やCGなど一部の分野に限られます。
そして、英語ができると変数名やメソッド名を適切につけやすくなるだけでなく、海外ドキュメントやフォーラムを読んで最新技術をキャッチアップできます。
世界的に情報が共有されているエンジニアリングの分野では、英語ができることが大きなアドバンテージになるでしょう。
科目の得意・不得意が、そのままエンジニアとしての働き方にも影響し、苦手な部分が多い場合は人一倍努力が必要になるのは事実です。しかし、苦手があるからといって「エンジニアに向いていない」というわけではありません。
ちなみに筆者はエンジニアになりたての頃は英語が苦手で、変数名やクラス名、コミットメッセージを決めるのに作業時間の約3割を翻訳ツールと格闘していました。少しずつ補強すれば必ず成長できるので、過度に心配せず取り組んでみてください。
自主学習・継続的なインプット
技術は日進月歩で移り変わっていくため、キャッチアップが非常に重要です。
スクールや講座で一通り学んだからといって、それですべてをカバーできるわけではありません。
新しいツールやフレームワーク、効率化手法、業界動向などを自らキャッチアップする意欲があるかどうかで、エンジニアとしての成長速度が大きく変わります。
学び方は人によって合う・合わないがありますが、公式ドキュメントやWeb上の情報、他社エンジニアとの交流などを活用しながら、実際の現場感をつかむケースが多いです。さらに体系的に学ぶときには書籍なども有効でしょう。
コミュニケーション力
Webエンジニアとして仕事を進めるうえで、何らかの形で他者とのやりとりは必ず発生します。
チーム内で仕様をすり合わせたり、クライアントや営業担当と要件定義を行ったり、場合によってはユーザーサポートの相談に乗ることもあるでしょう。
たまに「エンジニアになればコミュニケーションを取らなくて済むと思っていた」という人がいますが、
チーム開発やクライアントとのやり取りには当然コミュニケーションが求められます。
営業職のようなコミュニケーションとは種類が異なりますが、お互いの意図を正しく伝えたり汲み取ったりする力は高い精度で必要です。
特にリモートワークではどうしてもコミュニケーションが難しくなりがちです。
自分が必要なことを聞けているのはもちろん、相手が知りたい情報をこちらから適切に提供できているかを意識しましょう。
問題解決力
エンジニアの仕事を一言で表すなら「問題を解決する仕事」です。基本的にはユーザーの課題を解消するためのシステムやサービスを開発しているはずです。
さらには新機能の実装やバグ修正時には想定外のトラブルがつきものです。そのたびに「なぜ起こったのか?」を冷静に分析し、解決策を導く力が求められるのです。
たとえば、発生した事象を整理してリスクを把握し、比較検討したうえでゴールを明確化し、そこに向かうロードマップを描く、といったプロセスが必要になります。論理的な問題解決力は、エンジニアとして長く活躍するための重要なカギです。
ビジネス視点を持つ
「エンジニア=技術を極める仕事」というイメージが強いかもしれませんが、実はビジネスを考える力も非常に重要です。
企業から報酬を得ている以上、プロジェクトがビジネスにどう還元されるのかを意識しなければなりません。
もしビジネスをまったく考えたくない場合、研究職などの道もありますが、ここでは一般的なWebエンジニアとしての話を中心にします。
一つ、分かりやすい極端な例をあげます。
明日までに納品しなければ契約不履行となり、莫大な損害を被る可能性がある状況で、
「Aさんが書いたコードは不確実なので、完成は来週になりますがゼロから作り直します。」と言い出すエンジニアがいたらどうでしょうか。
いくらコードの品質向上が大切とはいえ、今は納品を優先すべき状況であることは明らかですよね。
また、有名な逸話である「もっと早い馬車が欲しい」という話でも、エンジニアがビジネスの視点を持っていれば「それなら車を作ったほうが根本的な解決になるのでは?」と考えることができます。
「なぜ早い馬車が必要なのでしょうか?」と、目的や背景を深堀りすると「さらに速い移動手段が必要」「大量の荷物を一度に運びたい」など、本質的なニーズが見えてきます。そこで、馬車の改良にとどまらず、まったく新しい選択肢(車)を提示するのがエンジニアとしての真価と言えるでしょう。
CEOや企画は技術を理解しているとは限りません。ビジョンや売上、投資家の期待などを優先するため、コストやリスクを含めた技術的な実現性まで細かく把握していないことが少なくなく、何の実装にどれくらいのコストがかかるかを正確に把握していることは稀です。
こうした場合、エンジニアが分かりやすく噛み砕いて説明し、ビジネス的に最適な選択肢を提案できると理想的です。
「単なる作業者」ではなく、ビジネスパートナーとして経営チームに貢献できるようになります。CEOに見えていない手札(選択肢)を提示できるのは、実現手段を知っているエンジニアならではの強みです。
こうしたビジネス視点を持って開発に取り組めるエンジニアは、チームや会社にとって大きな戦力になります。技術だけでなく、ビジネスの仕組みや経営の考え方を学んでおくと、長期的に見てもキャリアの幅が大きく広がるでしょう。
ビジネス視点がなくても価値を出せるケースはあるが…
もちろん、他とは段違いの技術力を持っていて、ビジネスサイドの要求変更や手戻りに柔軟に対応できるのであれば、ビジネス視点がなくても大いに価値を出せる場合もあります。
ただし、それは自身の心情的にも難易度が高い道です。自分がベストと思うものをビジネス要件で却下され続けるのは、どうしてもストレスになりがちです。相手の意図や状況が十分に見えない状態で、指示が変わるたびに対応するよりも、はじめからビジネス視点を持って対策を打つほうが自分自身も楽なケースが多いでしょう。
また、技術力で2番手までに入るようなエンジニアであればセカンドオピニオン的に重宝される可能性はありますが、3番手以下になってしまうと
「技術面はAさんやBさんもいるし、時間がかかっているから君はせめてビジネス視点を持ってくれ」という流れになりがちです。
技術だけならAIの得意分野になってくるのもあり、ビジネス視点も兼ね備えたエンジニアがより求められるという現状は、今後ますます強まっていくでしょう。
3. エンジニアに向いているか? 自己チェックのポイント
「エンジニアに興味はあるけど、自分に向いているのか分からない…」という方も少なくないでしょう。以下のような傾向がある方は、エンジニアとしての適性が高いかもしれません。
- 探求心がある
- 疑問や不具合があると、解決するまで気になってしまう
- 新しい技術や仕組みを調べ始めると、時間を忘れて没頭できる
- コツコツ継続が得意
- 少しずつ知識やスキルを積み上げることに喜びを感じる
- 「継続は力なり」を実感した経験がある
- 問題を整理する習慣がある
- 「なぜこの問題が起きたのか」「最終的に何をしたいのか」を常に意識して考える
- 環境や他人のせいにする前に、自分でできることを考えて行動する
- コミュニケーションを苦にしない
- チームで意見を出し合うのがそこまで苦手ではない
- オンライン・オフラインを問わず、自分の状況を共有したり相手に質問できる
もちろん、これらに当てはまらなくてもエンジニアとして活躍することは可能です。
もし「エンジニアが自分に合うかどうか分からない…」と感じるなら、基本情報技術者などの資格取得に挑戦してみるのも一案です。土台作りとしても有用ですし、自身がエンジニアとしてやっていくことが苦になるか否かを判断する材料になるでしょう。
4. まとめ
Webエンジニアはプログラミングスキルや知識だけで評価されるわけではありません。むしろ、コミュニケーション力や問題解決力、チームワークなどの“技術以外”のスキルが、現場やプロジェクト全体に大きな影響を与えます。
近年はAIが進歩し、コーディングそのものならAIがある程度代替できる状況になってきました。「コードを書くだけの人」は今後さらにAIに置き換わりやすくなると考えられます。だからこそ、AIのコンテキストに収まらないような広範な視点で問題をとらえ、既存のソリューションをなぞるだけでなく、自分で考えられる力が強みになってきます。
駆け出しの方でもし「自分がエンジニアに向いているのか分からない」と感じたら、本記事で紹介したスキルやチェックポイントを活用しながら、まずは自分の得意・不得意を見つめ直してみてください。エンジニアは資格がなくても誰でもなれる分、ブラックな環境に陥るリスクもあるのが現実です。
だからこそ、自分の強みを活かし、苦手を少しずつ克服する意識が大切です。場合によっては「エンジニア以外の仕事のほうが自分には合う」と気づくこともあるでしょう。大切なのは、適性と働き方を意識しながらキャリアを選ぶことです。
得意分野を伸ばし、苦手分野を補強しながら取り組めば、あなただけの“理想のエンジニア像”を築いていくことは十分に可能です。ぜひ、技術だけでなく幅広い視野や柔軟な思考力を身につけ、これからのAI時代でも活躍できるエンジニアを目指してください。